信仰宗教

誰の基にも一年は頻繁に訪れる。
人、ひとりの中に
何度も何度も一年が訪れて
それは周りの誰もが一緒だという。

あれから一年が経った。
長いか短いかではなく、「違う」ものとして、それは存在している。

彼女は、ある男性と
共に生活をしている。

もう何年も。

毎日おなじ布団に入って同じご飯を食べる。
彼女は、そろそろ細胞までも似て来ていると思っている。

そしてそれは、買われて、飼われているようだと彼女は感じている。

そんな生活を続けることは、
精神上、容易いことではないと、彼女は言う。

彼は彼女を愛せない。

とりわけ、彼女の思う形では。
彼に彼女の想う形で、人を愛する能力が備わっていないから。

なぜ一緒にいるのか問うと、
仕方がないと彼女は言う。

「彼は努力して、彼なりに私に接してくれる。
 私に嫌われたくなくて離したくなくて
 他の誰にも触れさせたくなくて。」

だけど彼に
彼女が言って欲しい言葉を発する能力はない。

「触れて欲しい方法も、場所もタイミングも違ってる。」

「さみしいね。でもお互い想って一緒にいる。
 ふたりとも、少しだけ努力してる。」


彼女はある時それらの想いを憎しみに変えた
彼女の小さな心によって受け止められる容量を
疾うに超えてしまっていたためだった。

愚かな彼女は、
その憎しみを、彼に一番効果的な方法で伝えた。

それは、彼を確実に苦しめ
怯えさせた。

そしてその行動は彼女のパッケージとしての価値を確実に下げた。

彼女は下がった価格で、
また彼に買われた。

今度はひどく安く買われた。

あれから一年
彼女を憎しみが支配した日から一年。
憎しみが、死んでいた彼女自身を生かして
一年。

彼女は考える。
一年前のことを。

だけど彼女は、彼の出張に付き合い
海外に移住している。

街も気候も何もかも違う世界で、
彼女は何も思い出すことが出来ない。
頭が働かないのだそうだ。

「季節がないと何も記憶が蘇らない。」


季節ってある種ストレス。
繊細を、生み出すもの。
季節のない人生は、気楽。
粗雑。暗愚。


「だけど今が良い。安くてがさつで。
 一番良い。この国に、あの季節がなくてよかった。」


ずっと苦痛だった。
苦痛の理由を探し
それらを言い訳として、彼といる選択をしたから
一緒に過ごしてきた。

一年前
細胞を変えようとしたの。

すっかり彼の色に変貌してしまった私の細胞を
もとの姿に。

だけどそれは
私の愚かさの上には叶わなく、
たくさんの人を裏切っただけだった。

私はいつも、最後には希薄な情が露出する。
冷静さが足りない。

そういう、修行しなくちゃいけないこと、たくさんあるから
このまま、彼と居て、修行するの。


彼女には、このような
架空の『修行』を創る想像力と、謙虚さと、頭の悪さが備わってた。

「そもそも、全て架空のもとに出来上がった人生で
 何を現実にするかは自由だよ。

 信じるものは生まれながらに
 システムの中で決められているんだから。」

彼女は、また言い訳を始める。
架空の自分を創り上げ
また自分が憎しみの塊に変わる日まで。自らそれらを自覚しながら
彼と『修行』に励むのだ。